父の不在と女性の依存——依存から自立への過程をたどる

 

こんにちは。ひがしすみだカウンセリングルームです。

今回は、ジャクリーン・ケネディ・オナシスの半生と、彼女が晩年に受けた精神分析に注目しながら、依存と自己の回復というテーマを考えてみたいと思います。

父の不在と陰鬱な家庭環境

ジャクリーン・ケネディは、離婚家庭に育ちました。母子家庭となった家庭は経済的に厳しく、母親は元夫を激しく非難する姿勢を見せていたといいます。そんな家庭環境の中で、ジャクリーンにとっての最大の楽しみは、父親との面会の日でした。

父は普段得られない関心や贅沢な物を与えてくれる存在であり、彼女にとって理想化された唯一の愛情の源であったと想像されます。しかし、家に戻れば父はおらず、陰鬱で批判的な空気が支配する日常が待っていました。父からの肯定と、家庭での否定。この繰り返しが、彼女の内面に大きな影響を与えていたことでしょう。

ケネディとの結婚 ——理想化された父の再演

成長したジャクリーンは、上院議員であり将来を嘱望されたジョン・F・ケネディと出会い、10歳以上年上の彼と結婚します。ケネディは、経済的・社会的に成功し、頼れる存在でした。彼女にとっては、父の不在によって満たされなかった「理想的な父親像」を重ねた相手だったのかもしれません。

しかし、実際の結婚生活は彼女の期待とは大きくかけ離れたものでした。ケネディは慢性的な不倫癖をもち、妻である彼女はしばしば無視され、夫婦としての情緒的なつながりを持つことが難しかったといわれています。彼女は夫にとって、政治的・社交的な“装飾”にすぎず、愛される実感や、対等な関係性を得ることはできませんでした。

この空虚さに対して、ジャクリーンは浪費というかたちで反応したと見られます。高級ファッション、旅行、宝飾品といった消費によって、自身の価値を支えようとしたのかもしれません。

オナシスとの再婚 ——庇護への渇望

夫の暗殺後、ジャクリーンは再び、父のように年長で資産家であるアリストテレス・オナシスと結婚します。表面的には経済的な安定を得たかのように見えるこの再婚も、情緒的な充足をもたらすものではありませんでした。

オナシスは高齢であり、夫婦生活と呼べるものはほとんどなかったといわれています。同居も少なく、彼女は多額の生活費を要求するかわりに孤独な日常を送っていたとされます。

このように、父親的な存在への理想化と依存を繰り返す構図の中で、彼女はなおも満たされることのない空虚感を抱え続けていたように見えます。

精神分析との出会い ——自己を取り戻す試み

オナシスの死後、ジャクリーンはニューヨークで一人暮らしを始め、精神分析を受けるようになったと報じられています。彼女の精神分析についての詳細は公にはされていませんが、バーバラ・リーミング著『ジャクリーン・ケネディ:その生涯』(Barbara Leaming, "Jacqueline Bouvier Kennedy Onassis: The Untold Story")などの伝記には、彼女が心理的な援助を必要としていたこと、そして晩年に心のバランスを取り戻すために努力していたことが記されています。

この過程は、彼女にとって自身の過去と向き合い、依存のパターンから抜け出す第一歩だったのではないかと考えられます。晩年、彼女は若いころに志していた記者の仕事に再び関わるようになったともいわれています。これは、他者に守られる存在から、自ら主体的に社会と関わっていく存在への転換を示しているように思われます。

精神分析が果たした役割は、彼女にとって「自分の物語を取り戻すこと」だったのかもしれません。

依存の背景にあるもの

ジャクリーンの生き方には、一貫して「父親像」への理想化が見られます。経済的・情緒的な庇護を求めるかたちで年上の男性に依存しようとする傾向は、満たされなかった幼少期の欲求の反復だったと見ることができます。

自己心理学の観点からすれば、彼女が求めていたのは「自己対象」としての父的存在であり、その不在は自己の統一性を不安定にさせ、内面の空虚感をもたらしていたのでしょう。浪費や華美な装いは、その空虚感を一時的に補う“自己修復の試み”だったとも言えます。

しかし、精神分析というプロセスを通して、彼女はそうした「外から満たされる」スタイルから、内的に自らを支える自己へと変化を遂げていったと考えられます。

もうひとつの物語 ——ダイアナ妃の歩みと重なるもの

ダイアナ妃もまた、離婚家庭に育ち、王室に嫁ぎながらも愛情に飢えた生活を送りました。やはり年上のチャールズ皇太子に父親的な理想を投影しながらも、その関係性は失望に終わり、過食や過剰な恋愛など、情緒的な不安定さを示すようになります。

しかし彼女もまた、「他者に愛されること」から「誰かを支えること」へと軸を移し、地雷除去や子ども支援といった活動に取り組みました。そこには、自己の意味を見出そうとする努力が感じられます。

父性の欠如と依存の問題

父親の存在が情緒的・経済的な基盤となることは多く、特に女性にとっては、理想化された父性の不在がその後の人間関係に大きな影響を与えることがあります。これは「毒親」という言葉で語られがちな母子関係だけでなく、父親との関係性の重要性を改めて問い直す視点でもあります。

ジャクリーンやダイアナのように、空虚感を埋めるための関係性や消費を繰り返す中で、やがて自らの内面と向き合い、自立へと歩みを進める——このようなプロセスには、心理療法が大きな役割を果たしうるのだと感じます。

誰かに依存することが問題なのではなく、依存せざるをえなかった背景と向き合い、それを言葉にしていくこと。その過程が、自己の回復を支えるのです。

 

 

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2025年04月01日