先延ばしのメカニズム
発達障害の相談の中で、「先延ばし」というテーマはとてもよく出てきます。やらなければいけないことが分かっているのに着手できない、締切が近づかないと動けない、頭では理解しているのに体が動かない。このような体験は、多くの方が共通して語られます。
一般には実行機能の問題として説明されることが多いのですが、実際にお話を伺っていると、それだけでは説明しきれない印象を受けることがあります。例えば、課題に向き合うことそのものが強い不安を伴っていたり、「できなかったらどうしよう」という予測が非常に強く働いていたりします。
個人的には、先延ばしには、報酬への反応の仕方と、不安を避けようとする傾向の両方が関係しているのではないかと感じていました。将来の達成感のような遅れて得られる報酬には動機づけられにくい一方で、失敗や否定的評価に対する予測は強く働くため、課題に向かうこと自体が心理的に負荷の高い行為になってしまうのではないか、という感覚です。
先延ばしとパーソナリティの関係
こうしたことを考えていたときに、先延ばしと心理的な問題の関係を、気質とパーソナリティの両方から検討した研究を見つけました。
トルコの心理学研究者ソゼル(Ömer Taha Sözer)が2026年に発表した研究では、人がどれくらい罰に敏感か、どれくらい報酬に引き寄せられるかといった生まれ持った反応傾向に加えて、自分という存在をどれくらい安定して感じられているか、感情をどれくらい扱えるか、人との関係の中でどれくらい安心していられるかといった、より基盤的なパーソナリティの働きとの関係が検討されています(Sözer, 2026)。
ソゼルの研究では、先延ばしは確かに生まれ持った反応傾向とも関係していましたが、それ以上に、自己理解や対人関係を含むパーソナリティの働きと強く関係していました。また、パーソナリティの働きが弱いほど心理的なつらさが強くなる傾向があり、その一部に先延ばしが関係している可能性も示されています。ソゼルは、この結果から、先延ばしは単なる性格傾向というより、心理的な適応の一部として機能している可能性を示唆しています(Sözer, 2026)。 発達特性との関係で考えると、これは対立するものではなく、重なり合うものとして理解した方が現実に近いのかもしれません。発達特性は注意のコントロールや衝動性だけでなく、報酬や罰に対する反応の仕方にも影響します。例えば、将来の利益のような遅れて得られる報酬に動機づけられにくいことや、失敗経験の積み重ねによって罰の予測が強くなることは十分に起こり得ます。ただし、ソゼルが示しているように、同じ特性を持っていても先延ばしの強さには個人差があり、その差にはパーソナリティの働きが関係している可能性があります(Sözer, 2026)。
先延ばしをコントロールするために
臨床的に考えると、ここにはカウンセリングが関われる余地があるように思います。もし先延ばしが短期的に内部の安定を守る働きを持っているのであれば、単純に「やる力」を増やそうとすると、防御を直接崩してしまう可能性があります。それよりも、課題に向き合ったときに生じる不安や自己評価の揺れを言葉にして整理し、耐えられるものにしていくことが重要になります。自分の感情を理解できること、失敗と自分の存在を切り離して捉えられること、評価と存在価値が同じではないと体験的に理解できることが進むと、課題は「自分を壊す可能性のある出来事」ではなくなっていきます。その結果として、先延ばしに頼らなくても内部の安定を保てる余地が生まれてくる可能性があります。 ソゼル自身も、この研究は因果関係を証明したものではないと述べていますが、先延ばしを単なる行動の問題としてではなく、心理的な適応の一部として理解する視点は重要だと考えられます(Sözer, 2026)。先延ばしは、時間を止めているのではなく、何かが崩れるのを止めているのかもしれません。そのように考えると、支援の方向も、「できるようにすること」だけでなく、「崩れずにいられる感覚を育てること」に向かっていくのではないかと考えています。
参考文献
Sözer, Ö. T. (2026). Understanding procrastination and its association with psychopathology from reinforcement sensitivity and personality functioning perspectives. Personality and Individual Differences, 255, 113693.
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