他人にどう思われるかわからないという文法

 

 対人恐怖の人は不思議と「他人にどう思われるかわからない」とはいっても、「他人がどう思うかわからない」とは言わないようです。同じ意味を指し示す表現のように見えますが、この表現にはどうも大きな違いがあるのではないでしょうか。

「他人にどう思われるのか」という表現は、他人が自分に対して「何かを思うこと」が極めて侵襲的(傷つけられたり負担を与えてくるように)に感じられていないと、こういう言い方にはならないのではないかと思います。

この時、感情を感じる主体が、後者の場合は他者が感じる感情とされているのに対して、前者の場合はあまり明瞭だとは言えません。むしろ前者の場合、他者は「(私によって)私のことを思わされている」のに近いようにも見えます。このとき、「私」は「誰かにそのように思わせることができる」と信じているようで、その意味では、対人恐怖心性における、「他人にどう思われるか」というのは強い万能感の裏返しの表現とも言えるのかもしれません。他人はあなたのことをそんなに思っていませんよと言われても、いや絶対変に思われているのだと、強弁するのはまさにそういうことでしょう。

このとき、「他人にどう思われるか」という表現は、自己が他者によってどのように評価されるかという視点を強調しています。自己が他者に与える印象や他者からの評価に焦点を当てており、自己と他者との間に関係性があることを示唆しています。

一方、「他人がどう思うか」という表現は、他者が内部でどのような感情を持っているかという視点を強調しています。自己が他者の感情を読み取ることや他者の心の中を理解することに焦点を当てており、他者の主観性を考慮しています。

この微妙な違いにより、「他人にどう思われるか」という表現では、自己の行動や言動が他者によってどのように評価されるかという不安や恐れが強調されている場合があります。一方、「他人がどう思うか」という表現では、他者の感情や評価を読み取ることが難しいと感じる対人恐怖が強調される場合がありますが、他者の主体を仮定していると考えると、前者よりも独りよがりで過度に主観的な要素は少ないように私は思います。

これらの違いは、自己と他者との境界がどのように感じられるかにも関連しています。前者の表現では、自己と他者の境界が曖昧なゆえに、自分の不安を投影しすぎるあまり、他者の感情を読み取ることが難しいと感じる場合があります。一方、後者の表現では、自己と他者が対等で相互に影響しあう関係であるように感じている部分があるのではないでしょうか。

このように言葉の使い方一つで、仮定される心理的世界は大きく異なってきます。逆にこうしたそのひとのもの語りの方法=文法が変わってくることで、その人が捉える世界というのは変わってくるものです。

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2023年08月13日