こんにちは。ひがしすみだカウンセリングルームです。
当相談室には「猫先生」がおりますが、私自身、自宅でも猫と暮らしています(もとい、同居させてもらっています)。 地域柄、TNRされた地域猫や野良猫も多く、猫を身近に感じる機会に恵まれています。そんな日常の中で、ふと思うことがあります。
それは——猫とアスペルガーの子どもたちは、どこか似ているということです。
今日は、日々猫と暮らす中で感じたことを出発点に、アスペルガー症候群(現在では自閉スペクトラム症=ASDと診断されることが多い)について、脳科学的な視点を交えながら考えてみたいと思います。
ちょっとユニークな切り口ですが、「違いを尊重する」という大切なテーマに触れられたらうれしいです。

猫という存在──孤高の狩人が教えてくれること
まず、猫という生き物について考えてみましょう。 猫は、ネコ科動物の中でも単独で待ち伏せ型の狩りを得意とする動物です。自分の縄張りを守り、静かに暮らす彼らは、群れることを好まず、必要以上に他者と接触することを避けます。
たとえば、猫同士の喧嘩も直接の攻撃ではなく、長い睨み合いによる緊張のやりとりが中心です。目を合わせることは緊張を生み、逆に目をそらすことは和解や降参のサイン。 こうした独自のコミュニケーション方法には、彼らの生存戦略が深く刻まれています。
この猫の生き方を知ると、私たちは自然と「彼らの流儀」を尊重しようとします。 実は、こうした「違いを尊重する」視点は、アスペルガー症候群を持つ子どもたちとのかかわりを考えるうえでも重要なヒントを与えてくれます。
アスペルガー症候群とは──「違い」の成り立ち
では次に、アスペルガー症候群について簡単に整理しておきましょう。 アスペルガー症候群(ASDの一部)は、脳の発達の違いに根ざした特性群です。 主な特徴には、 社会的コミュニケーションの難しさ 感覚の過敏・鈍麻 パターン化された行動や興味 変化への強い抵抗感 などがあります。
これらの特徴は、努力不足や性格によるものではありません。脳の情報処理の仕方そのものが異なるために生じるのです。
ここで、少し脳科学の視点を加えてみましょう。
扁桃体の過敏性により、些細な刺激でも不安や恐怖を感じやすい。
前頭前野の働きの違いにより、柔軟な思考や他者の気持ちを推測するのが難しい。
感覚統合機能の特異性により、世界が非常に刺激的で圧倒的に感じられる。
つまり、彼らの「変化を嫌う」「こだわりが強い」といった特徴は、生まれ持った脳の特性に根差しているのです。
猫とアスペルガー症候群──不思議な共通性
こうした背景をふまえると、猫とアスペルガー傾向の子どもたちには、自然にいくつかの共通点が見えてきます。
変化に敏感であること
猫は、家具の配置が少し変わっただけでもストレスを感じます。これは、未知の変化を「危険」として察知する本能に根ざしています。 同様に、アスペルガーの子どもたちも、突然の予定変更や新しい環境に強い不安を抱きます。
これは単なる「わがまま」ではありません。扁桃体を中心とした脳の危険感知システムが過剰に反応してしまうためです。
感覚の鋭敏さ
猫は、音・におい・光に非常に敏感です。 アスペルガー傾向の子どもたちも、感覚過敏を持つことがあり、ちょっとした雑音やまぶしさが耐え難い苦痛になることがあります。
この「世界の受け取り方の違い」は、彼らの疲れやすさや不安の大きさに直結しています。
対人距離の独自性
猫は、必要なときだけそっと寄り添い、それ以外は自分のペースで過ごします。 アスペルガー傾向の子どもたちも、距離感の取り方が独特です。他者との関わりを「疲れるもの」と感じやすいのは、脳内のミラーニューロンの働き方の違いに関係していると考えられています。
「猫としての彼ら」をどう受け止めるか
ここまで見てきたように、猫とアスペルガー傾向の子どもたちは、それぞれに「自分を守るための知恵」として、こうした特性を持っています。
猫に対して、私たちは自然と
無理に近づかない
そっと見守る
生活環境を安定させる
という態度をとります。
では、アスペルガー傾向の子どもたちに対しても、同じように接することができたらどうでしょうか?
「もっと空気を読んで」 「我慢しなさい」 そんな要求ではなく、その子が安心できるペースを大切にする。
それが、「違いを尊重する」ということの本当の意味なのかもしれません。
いくつかの文献的示唆
この視点をわかりやすく伝えてくれる本に、Kathy Hoopmannの『All Cats Have Asperger Syndrome』があります。 猫たちの日常を通して、アスペルガーの子どもたちの特性を温かく紹介している素敵な絵本です。
また、Carlisleら(2018)の研究では、猫と暮らすことがASD児童の情緒安定にプラスの影響を与える可能性が示唆されています。
猫の存在が、子どもたちに「無言の安心」をもたらしているのかもしれません。
まとめ──違いを生きる、ということ
猫とアスペルガー傾向の子どもたち。 一見違うようでいて、どちらも「違いを持ちながら生きている」存在です。 その違いを受け入れ、 「あなたはあなたのままでいい」 と伝えること。
それは、彼らを助けるだけでなく、私たち自身が違いを恐れずに生きるための、大切な一歩になるのではないでしょうか。
参考文献
Kathy Hoopmann (2006). All Cats Have Asperger Syndrome. Jessica Kingsley Publishers.
Carlisle, G.K. (2018). The Social Lives of Children with Autism Spectrum Disorder: Animal-Assisted Interventions and Attachment. Frontiers in Veterinary Science, 5, 70.
Baron-Cohen, S. (2008). Autism and the Empathizing–Systemizing (E-S) Theory. European Journal of Psychology of Education, 23(3), 287–297.
Belmonte, M.K., et al. (2004). Autism and Abnormal Development of Brain Connectivity. The Journal of Neuroscience, 24(42), 9228–9231.。
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