描画療法の紹介:「今と将来」

 

ひがしすみだカウンセリングルームです。
今日は、描画技法のひとつである「今と将来」描画についてご紹介します。

神経発達症者の二次障碍による青年期の躓き

 「今と将来」は、Stoch& Remocker (1974)によって考案された描画技法です。紙面の左側に「現在の自分の状態」、右側に「将来こうあったらいい状況」を描くもので、もとは集団作業療法の中で、自分自身や他人についてより理解を深める描画技法として考案されました。

 この描画技法の大きな特徴は、①今と将来に対する自己イメージ、②今と将来の認知的評価、③今と将来の統合・評価の3点についての理解が深められることが挙げられます。また、描画という形で、現在から未来へとつづく時間的展望を「外在化」(高橋・吉川,2001)することで、それを眺め、検討することになり、おのずと自己理解に結びつけることが可能にするものです。

 「今と将来」描画法は、①「現在」、および「未来」のイメージに、現在の自己像が投影されること、②現在の自分と未来の自分の物語の関連付けや描画後の質問を通じた描画の語りから、その人の防衛のパターンが推測されること、③現在と未来の自己像を描いてもらうことでクライエント自身の未来イメージに形を与え、実現行動を促進するなど、描画者の防衛パターンだけではなく、認知的な処理の仕方や、現実検討をする力の理解にも用いることができることが分かっています(藤田・田中,2014)

事例1:「光が少し足りない」

 過去の調査で得られた事例をいくつかご紹介します。倫理的配慮のため、内容は一部改変してあります(公開の許可は得たものです)。20代の女性のものです。

現在(左側)は、黒くどんよりとしたカラをかぶった花が描かれました。花は少なく、窮屈な感じがします。将来(右)はそのカラが取り払われ、太陽の光が降り注ぐ、伸びやかな森へと変化するイメージが描かれています。

 詳しく尋ねますと、現在は「頑張って良く見せようとしている感じ。カラに閉じこもっている感じ。誰にも入って欲しくはないが,外の世界に興味がないわけではない」といい、これは自分のイメージに近いが、自分としてはあまり認めたくないといいます。「外は晴れだが、カラ越しに見ると曇って見える」といい、風はなく、「光が少し足りない」のだといいます。「動きたくないが,変化も欲しい。色んなことを考えすぎて,結構疲れている」と語りました。カプセル化して、視界が濁っているような状態であり、殻を被ることで現実から退却している自己イメージが投影されているようにも見えます。それは、内に閉じこもっている側面もあるかもしれませんが、行き詰まるような感覚もあるのだろうとおもわれました。

 これに対して将来の絵では、「内面的にバラエティーの富んだ人。完璧主義から離れたい。なりたい自分だが,まだなおすことがある」と説明しました。自己イメージとしてはまだ遠いが、やや手前の方にあると、遠いなりに身近なものでもあるのだといいます。ご覧の通り、晴れてはいるが,快晴ではなく、もやもやとした雲が残ります。ただ、将来の自分は現在の自分より明るく見えていて、そよ風が行ったり来たりと、風が吹き始めるとともに成長に向かって動きだすかのようでした。
 必要なものは「暖かさ、落着き」で、内面的な余裕や、支持がいまだ十分ではないと考えている様子が伝わってきます。描画後に、「思った程に楽しさや安定感がない。これには決して満足していない」と語り、内面的にもっと豊かで自由に振舞いたいけれども、今は自分をよく見せようとするばかりであること、そんな自分を変えたいが、動きたくない思いもあって行き詰まりを感じている様子がうかがえます。

 現在から変わるには、「行動力」が必要で、そのために外界を知る必要があるという。将来イメージの実現可能性は60%くらいで、「今はまだ、頭で考えているものに気持ちがついて行っていない。しかし現実と理想のギャップは感じているが、そう簡単に理想は捨てられない」といい、このような将来の理想を描くことで、現実と理想のギャップについて意識することが可能になったと考えられます。性急に行動するのではなく、まずは外界を知ることからはじめるのがよいのではないかと考え、慎重にカラから出ようとする様子がうかがわれます。描画主題を用いて現在の自分に必要な行動を見出していく様が見てとれれるかのようでした。

事例2;「生き急いでいる、焦っている」

 現在は寒色で雨の中の猫、将来は暖色の四角に囲まれた猫が描かれています。
 現在は「元気のない感じ」で、自分とは近いイメージ。ご覧の通り天気は雨で、温かくも寒くもなく、風はない。必要そうなものについて尋ねると、「何も要らない・・・・」といいますが、描画の感想では、「寂しい。なにをやっているのだろうか?」と語ります。黒猫は濡れそぼってしょんぼりしていて、さびしさに打ち震えているかのようです。

 一方、将来は、暖色系の鮮やかな色で紙面が埋められています。しかし、現在と変わらずうつむいた猫が描かれ、本人も「制限が多く、自由が無い」といいます。これも自分らしいイメージだと思うのだそうです。天気は晴れ。温かくも寒くもなく、風は吹いていない。何やら行き詰まりを感じさせる雰囲気です。

 何か足りないものはありますか、と尋ねると、「将来」イメージに必要なものは「空間(ゆとり)」であるといいます。たしかに、いろんな色に埋め尽くされて、空間がありません。なぜそう思うか教えてもらうと、自分が「生き急いでいる。あせっている」ことを理由として挙げました。「将来」イメージについては、「派手」とのみ語り、自分の将来に対して、自由や息つくゆとりもない、めまぐるしいもののように感じていると思われました。

 将来のように変わるには「元気・やるき!!」が必要で、そのために「誠実にやっていくしかない」のだと、あきらめにも似たような気持を語ります。実際にイメージ通りにやっていける可能性は60%くらいと評し、感想では「そんな気分ではなかったが、いろいろな色を使った」と述べました。測りかねる部分はありましたが、全体的には現在イメージの猫のように落ちこんでいる様子と、それに伴って、これから様々なものがのしかかってくるのではという抑うつ的な展望を抱いている様子がうかがわれました。こうした窮屈な見通しをやる気で何とかする他はないと考えるような、抑圧的な防衛パターンがうかがわれました。

自己愛の修復作戦と手を結ぶ

 時間展望の中に自分の現状を組み込み、改めて捉えなおす方法は、多くの心理療法において活用されている技法です。「今と将来」法は、現在と将来という時間的位相の異なる場面を描いてもらい、カウンセラーとのやり取りを通じて二つの時間を統合する描画法と言えます。「今」と「将来」は一見別の場面のようですが、実は一つの物語を作っていて、現在から未来へと繋がる連続した自己像があらわれるものです。また、この統合あるいは加工の過程に、クライエントのその人らしさや認知のパターンが反映されることがあります。

 たとえば事例2(猫の絵)は、現状に対する否定的なイメージが強く、将来において状況変化の兆しは見えているものの、どこか否定的に捉えてしまい、原色系を用いたカラフルなイメージと語りの色合いとが重なり合わないでいました。本人もそれを自覚しており、カラ元気で明るい色を使うなど、自己不一致状況をひとりで打破しようと無理をする様子が見て取れます。
 事例1(カラを被った花)の描画については、自分の内閉的な心理社会的状況に対しての言語化がみられ、いつかはそこから出ていくために、外界を知ることから始めてみようとする現実性が見て取れるのではないかと思います。

 今と将来のイメージをそれぞれ本人の現実自己と理想自己を絵にしたものと理解するならば(天満ら,2008)、この2つの絵は、今と未来のふたつあわせて、現在のクライエント像を表現しています。これらがそもそもどのような手順で描かれ、どのような意味と内容を持ち、統合されるのか。そこにもクライエントさんのその人らしさが表れてきます。絵を、カウンセラーとクライエントがともに眺め、話し合うことで、自己理解を深めていく一助になると考えています。描画は、セラピスト一人でも、クライエント一人でも成り立たない、関係性の産物です。ひとりで描くだけでは得られない発見が、描画療法を通じて得られるかもしれません。

当相談室では、今回紹介した今と将来だけでなく、様々な描画療法を体験することができます。ご興味のある方は、どうぞお問い合わせください。

 

【参考文献】

天満弥生・石田弓・内海千種(2008)人物画テスト2枚法の臨床的有用性の検討 ―自己理解を促す「描画後の質問」の考案―. 徳島大学人間科学研究, 16, 145-163

土田恭史, 田中勝博, 今野裕之, & 菅谷正史. (2015). 「今と将来」 法による描画後体験や気分感情へ 及ぼす影響に関する研究. 目白大学心理学研究, 11, 29-39..

土田恭史, & 田中勝博. (2017). 「今と将来」 法における反応パターン分類に関する研究: 同一性と自我機能の観点より. 日本芸術療法学会誌, 48(1), 80-87.

 

 

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2019年02月03日