主語を明確にすることのススメ

苛立ちの問題や、怒りの問題でご相談にお見えになる方に時折出会います。イライラするのは愉快な経験とは言えませんし、感情をコントロールできていない感覚があって、なんとか統制したいという気持ちが湧くのは十分に理解できることです。イライラは自己統制感だけでなく、対人関係にも影響しますから、やはり気になるものです。

イライラを「消す」ことは難しい

怒りのコントロールについて、アンガーマネジメントが有効だと耳にしたことがある方は結構いられると思います。アンガーマネジメントは、怒りが生じるのはしょうがないが、それをいかにコントロールして表出するかの理論です。怒りがきれいに消え去ることを目的にしていません。実際感情というのは発生論的に生物に備わっているものですから、感情をなくす、ということは困難であるといっていいと思います。

どういうことで、この気持ちが起こっているんだろう

ただ、感情が湧くことの背景には、その人の現象理解、捉え方が影響してくるとは言えるだろうと思います。特に怒りやイライラの問題は、目の前の出来事が、自分の求める水準にないことに寄って、生じることがどうも多いようです。

アレをしてくれなかった、こうしたかったのに、邪魔をされた。アイツのせいだ、と他罰的になることで生じるのがいわゆるイライラということになるのでしょう。気持ちの整理のためには、一面的な感情理解を、複眼的に見ていくことが重要になります。つまり、「こういう気持ちがあるからこう思うんだ」ではなくて、「どういうことで、この気持ちが起こっているんだろう?」と自分に問いかけることから始めるのがどうも良さそうに思います。

自分の感情を理解するポイント

感情を理解するときにポイントになることは、主語と目的語を見定めることにあると私は考えています。

日本語は主語や目的語が省略されることが多く、そのために、感情が未分化になりやすいというところがある。つまり、誰が、何に対してその感情を抱いているのか、と考えてやることには意味がある。例えば、今の感情を英語にしてみると、その気持がどういうものかがクリアになると思いますよ、ということをよく言います。

「腹立つわー」というとき、英語にしてみれば「I get angry」ということになり、腹が立っているのは自分だということがわかります。よく、言うことを聞かない、あいつが悪いからムカつくとかおっしゃる方がありますが、外部にそうした誘因があるのだとしても、怒っているのは「私」であって、彼が怒らせているというのは、意図的でない限りはそうそうないと思うのです。

また、相手が自分を怒らせるというのは受動態になるかと思いますが、やはり主語はIなので、その感情の主体(主語)は「私」ということになるでしょう。彼/彼女の怒りを見て怒っているのはあくまでも私でということになる。彼/彼女が怒るなら、感情の主体は彼/彼女であるし、あなたが怒るならその感情はあなたのものということになります。お前が私をこうさせるんだという受動態的な言い方は、相手に感情の責任を追わせ、自分の感情の責任を棚に上げて、感情を引き受けない態度と言えるでしょう。

イライラの背景にある自分の価値基準

では、何が、そうしたイライラを生むのか。一般的に感じることは、自分の期待通りに相手がやってくれなかった失望を、相手のせいにすることで起こるというのが割と大きいのではないか。いわゆるマナー違反も、マナーにそう「べき」なのに、それに沿わないことを怒るということだったり、相手がこうする「べき」なのにしなかったことについて、幻滅や面倒感を自分が感じることで湧いてくる感情、ということになるのではないでしょうか。

この「べき」に入るものは人それぞれで、その人の価値基準ということになるのだろうと思いますが、イライラいついて考えるとき、その感情の主体は「誰」で「何」についてそう思い、「それ」は「誰」の「価値」なのかを検討する事が重要になってくるというのが、私の実感です。このときの「誰」が実は「私」の価値ではなく、「別の誰か」の価値だったりする事もあって、そのときは改めて、私の感覚はどこにあるのだろうかと探索をしていく必要がでてきます。

カウンセリングでは、その価値とはなにかに目を向け、とりわけ「誰」が「何を」体験して「何を感じた」かを話しながら、感情の整理の過程を進めていくことになります。

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2019年05月27日