自己愛研究の変遷

 ひがしすみだカウンセリングルームです。

 私個人としては自己愛の問題について非常に興味があります。
 そこで、古い記事ですが、過去にまとめたものをご紹介します。

本邦において、自己愛を中心的なテーマに据えた研究が増えだしたのは、90年代に入ってからです。主に精神分析研究などで、事例あるいは論考論じられてきました。90年から94年にかけて特に青年期のクライエントにおける自己愛的な問題について言及され、事例報告も出始めています。

 93年にはKohutのナルシシズム論が紹介され、また自己愛パーソナリティ人格目録 (NPI) の翻訳も進められました。1995年には自己愛に関する論文数が急速に増えてますが。これは、94年にコフートの『自己の分析』が翻訳、出版され、自己心理学的な自己愛人格に注目が集まったことと関係していると思われます。また、「とじこもり」(引きこもり)の事例が自己愛の問題と関連付けて論じられるようになり、自己愛傾向や、境界性パーソナリティの治療論に関する論文が投稿されるようになってきました。2000年頃には自己愛概念が臨床家に浸透してきたこともあって、分析的な場面に限らず、様々な分野で論じられるようになってきています。特徴的なのは概念に関する研究から、事例研究にシフトしていることといえるでしょう。

 CiNii(国立情報学研究所)によると、本邦で「自己愛」という用語が使用されたのは、文学や哲学の分野が先であったようです。心理学領域で研究論文に自己愛という用語が見られるようになるのは、1984年のことです。その後、主に臨床心理学とくに精神分析の分野で、自己愛は積極的に研究・発表されるようになっていきました。

1994~1995年頃から、徐々に増え始めていることがわかります。精神分析に於ける自己愛研究は、1990年代初めでピークを向かえます。一つのきっかけは、Kohut,H.の自己愛に関する三部作が邦訳されたことがあげられる。実際、95年には精神分析学研究にて、多くの治療者が、自己心理学的な観点からの論考や事例が多く報告されている。そして、それ以降、質問紙研究や論考、論評だけでなく、事例研究の数も増えてきているのが特徴的だといえます。その後、急速に発表論文数が低下するわけですが、それと入れ替わるようにして、諸大学での研究紀要で自己愛研究が行われるようになっていきます。臨床心理士の資格制度が出来、臨床系の大学院が増加したこともあり、発表の場が急速に広がったことも関係しているのでしょう。自己愛に関連した研究論文は増えていき、ここ5年ほど、論文発表数は横ばいとなっています。自己愛概念が広がり始めたと共に、自己愛概念が、臨床場面や研究上の観点として用いられるようになっていったということでもあるのでしょう。
1999年は、気分障害の患者数が急増し始めた時期でもあります。冨高(2010)はSSRIの認可に伴って、精神科に抑うつ気分を抱える患者が増えたことを指摘し、抑うつ気分を抱える事が病気であり、治療を受ける対象であるという意識が広がり始めたことを報告していますが、これに呼応するかのように、様々な領域で自己愛に関する論考や事例報告が増加していることは興味深い現象です。大学紀要など発表の場が増えたことも、論文数が増えた大きな要因ではあるのでしょうが、心理だけでなく医療、看護等など様々な分野での事例報告や研究が行われたことで、論文数が増えたという点は見逃せない。

研究動向の変化
 本邦で自尊感情や自尊心に関する心理学的な研究が活発になるのは1995年のことです。これは、様々な要因があると考えられるため、一概に原因を明らかにすることはできません。たとえばこの年は文科省によるスクールカウンセラー活用調査研究委託事業が始まった年であり、臨床心理系の大学院の設置が増えた時期である。またコフートの邦訳なども重なり、研究分野の広がりや、臨床的観点の広がりや問題意識の変化があったでしょうし、それに呼応して、クライエントの呈する自己愛的な問題への注目も高まっていたといえましょう。
  また、さまざまな臨床場面で、傷つきやすい子どもや大人が増えてきた現実があると考えるのが妥当と思われます。自尊心や自己評価ということばは、概念としてはそれぞれ異なるものですが、相互に関連性の高い、類似の概念であると考えられており、臨床的にはこれらの概念はあまり区別されることなく用いられているのではないか、というのが筆者の実感でです。しかし全く関係ないわけではなく、岡田(2009)によるメタ分析の結果、NPIによる自己愛傾向は、自尊心と弱い相関が認められることが報告されており、どうやら関連があるらしい。岡田は、NPIが自己愛の過敏性の面よりも誇大性の面を中心に評価する傾向があることを挙げ、自尊心との関連が認められたのではないかとのべているわけですが。概念的な相関の程度は弱い相関に止まるのではないかともいわれており、一口に自己愛の問題といっても、必ずしも自己イメージが悪いばかりではない。ようは状態像にそった理解の枠組みを用いる必要性に迫られているように思える。

患者統計的には観察されていませんが、現実90年代の半ばから、自己愛的な問題は、臨床で注目されるようになっており、その傾向は広がっています。それは論文数に反映されていますし、今後もこの傾向が続くと思われます。ここから読み取れることとして、比較的抑うつなどが軽症のひとたちであること、激しい行動化を呈するよりも、機能低下や中断などを呈することが多いため、人格障害ではなく抑うつに診断されてしまうこと。この傾向が95年以前は緩やかだったが、95年以降になって研究が増えるなど、自己愛的な問題に対する研究者の意識が変わってきていることがあげられます。また、その一つの要因として、うつ病患者の急増に伴う軽症うつ病患者の増加、インターネットの普及やヘルスケアプロモーションによる、カウンセリング利用の敷居の低下によって、こうした問題を抱えたクライエントが臨床場面に多くあらわれるようになったことに留意をする必要がある。

2017年12月23日